私は2001年4月28日より2001年5月3日までマウイ島に滞在し、

そのうち5月1日、2日、3日の3日アイソレーション・タンクを計4回、経験した。

その経験の印象をここに記す。

【5月1日  PM10:40〜AM12:30】

突然の訪問だった為、当然ながらセットアップが間に合っておらず、
しかも土日を挟んでいた為28から30までの3日間はウェイティング。
その為か身体は少しこわばっている。
日中、昼と夜の食事時にビール1杯と赤ワイン1杯ずつ飲んだが緊張の為、全く酔いは感じない。

裸になりタンクの中に入る。
自分で蓋を閉める為、尻と膝は底についた状態だ。
本当に15cm程のこの液体に人間のような重い物体が浮くのだろうか?
そんな思いのなか横になろうとする。
その瞬間、突然「プカッ」と浮く。
この瞬間は自分が、途方もなく広いジャングルか何かの密林の底なし沼に
急に放り出された様な感覚に襲われ、一瞬だが物凄い「恐怖」を感じる。
だが、すぐにタンクの側面に手足が当たり自分はマウイの博士宅の
タンク内にいる事を確認でき、恐怖感は消える。
それと同時になぜか50年代から行われてきたタンクを使っての
様々な実験の歴史をふっと感じた(実際には匂いがした気がした)。

さて、横になってみると“浮く”という初めての経験からかなかなかリラックスできない。
段々、肩が凝ってくる。究極のオーダーメイドのベットである筈なのだが。
しかし、徐々に身体のポジッションが決まってくると心臓の鼓動の音が
妙に心地よくしかも鮮明に脳に(身体に?)響いてくる。

そんな状態が恐らく10分は続いただろうか。
急に、例えば映画か何かでショッキングな展開がされる時に鳴る
効果音(音楽?)の様なモノが聞こえた気がし、
突然身体(脳が?)が横に凄いスピードで持っていかれる感じになった。
だが、自分はタンク内にいるという気持ちが脳を冷静な状態に戻す。
すぐにそんな状態になるのだが、また先程の状態を味わいたくて意識を集中させ始める。
すると今度は前にゆっくり倒れていく感覚が現れる。
そしてまた、冷静になる。と、すぐに後ろへ倒れていく感覚になる。
そんな状態を交互に経験した後に、非常に明るい光の様なモノが自分を包んでいくのを感じる。
そしてその中で、自分が自分の中からその光に向かって身体から離れていこうとしているのがわかる。
身体と精神は別物である事をハッキリと感じる。
この時の感覚は、とてつもなく「愉快」で恐らく光に向かって進んでいる
自分の顔は信じられない程の笑顔であったはずだ。

「幽体離脱」とはこの様な感覚なのだろうか?
そんな事を考える余裕はあるのだが、その愉快な感覚に浸りたくて思考をストップさせる。
更に光は輝きを増し、絶対的な安堵感に包まれていく。
この時点で、「身体」の感覚は完全に消え、息をしている口と脳(意識)だけが暗闇に
浮かんでいるイメージが残る。
たまに何かの映像が浮かびかけるが、ハッキリとは見えてこない。
息をする度に何かが大きくなっていく。
自分の身体、300Kgもの塩が入った液体、そしてそれ以外の空間すべてが
確実に解け合っている。

そうこうしていく内に、尿意を感じている自分に気尽く。
それが次第に意識の中で大きくなり、それと同時に良い眠りからさめた時
のような満足感に身体が支配され、タンクから出る事にする。
余談だが、横になった状態から起き上がった時髪や肩から水が滴り落ち、
その音を聞いた時「あの世」から「この世」に戻ってきた気分になった。


【5月2日  AM9:40〜AM10:40】

前日、興奮してあまり眠れず、しかもアルコールを多く飲んだ為、
体調が良くない(2日酔いまでは至ってない)。
その為か相変わらずタンク内で横になるとしきりに肩が凝る。
結局、意識を集中させることができず、1時間あまりで切り上げる。
健全な精神は健全な肉体に宿るという事か?
やはり万全な体調で望めば良かったと後悔する。

タンクを「エンジョイ」する為にはある程度のトレーニングが必要である事を意識するが、
その時ふと、「リラクゼーション」という言葉が頭に浮かぶ。
ビーチに寝そべる、「温泉」にはいってゆっくりする、素晴らしい音楽や絵画に接する、etc…。
それらのものとは明らかに一線を画する位置にタンクの「リラクゼ−ション」は在る気がする。
果たして本当の意味での「リラクゼーション」とは何なのだろう?
そんな問いかけが続く中、タンクから出る。

【5月2日  PM9:40〜AM12:40】

2回目の体調が万全でなかった為、昼寝をして体調を整える。
3回目という事もあってタンク内で横になるとすぐにリラックスした状態になる。
肩凝りもあまり気にならない。心臓の鼓動のみ聞こえる。
10分程すると例の効果音のようなものが聞こえ、また急激な横移動が始まる。
そして又、例によってタンクにいる自分を意識して冷静になる。
が、すぐに前のめリに落ちていく感覚になる。
そして又、冷静になり...と、一回目とほぼ同じ感覚を味わっていく。

すると、突然だが頭に映像が浮かんできた。
まず最初に浮かんだのは、「きゃべつ」で、自分自身が「きゃべつ」になる感じがあり、
しかし良く見るとその「きゃべつ」は黒い画面に紫色の蛍光ペンで描いた様なもので、
実は「きゃべつ」ではなく、「脳みそ」である事がわかった。
そして、その「脳みそ」の皺が増えていく気がして若干の気色悪さを感じる。
と、その映像は消え、次に「花」が浮かんできた。
恐らくハワイといった南国の「花」でとても色鮮やかだ。
やはり黒い画面に赤(ピンク?)の蛍光ペンで描かれた感じだ。
この「花」は現れては消え、すぐ別な「花」に変わる。「花」は変わるが色彩は同じだ。
「花」と平行して数人の見知らぬ男女の顔が浮かぶ。
しかし、相変わらず黒い画面に蛍光ペンで描かれたもので、余りインパクトは感じない。
「きゃべつ」、「花」まではかなり興奮している自分を感じたが、
段々と惰性でそれらの映像を見ている自分を感じる。

そこで、また僅かだが尿意を感じている自分に気尽く。
しかし、このままずっとこの感覚に浸っていたい為、
尿の事はひとまず忘れ、再び意識を集中させる。
その頃にはもう既に先程までのハッキリした映像は無くなっており、
また少しずつ光を上(?)の方から感じ始めている。
映像が無くなった代わりに、今度は身体の表面にハッキリとした「風」を感じ始める。
それは、冷たくもなく熱くもなく非常に心地よい温度で、身体にバサバサと当たっている。
...これは「そんな気がする」というレベルでなくとてつもなくリアルな感触だ。
その内に、身体の表面に当たっていた「風」が身体の中を通り抜け始め、
最後には意識される全ての部分が「風」に晒されている感覚になった。

その瞬間、蝉の幼虫の抜け殻の様になった自分の身体が見え、
次の瞬間、広大な青い空に、まるでタンポポの種子の様に漂っている自分に気づいた。
心地よい「風」の感触に支配される中、自分自身の「体重」、地球上に存在する「重力」…、
全ての「重さ」は消え失せ、あるのはただ心地よく漂っている「自分」という「存在」。
これは、マスターベーション、或いは恋愛や、人生における成功などで味わう「心地良さ」とは違う。
「個」が消失した瞬間だろうか?
だが、その感覚がいつまでたっても消えないので(とりわけ先程からのリアルな「風」の感覚)、
少しの不安と退屈を感じる。意識の集中が緩慢になったのか?

そう感じ始めた時、再び尿意を感じる。
冷静になってみると、圧倒的な満足感に「満足」している自分に気付く。
「今日のタンクはもういいんじゃないか?」と言っている自分だ。
これ以上は無理だと思い、三度目のタンクから出る事にする。驚く事に三時間が経過していた。


【5月3日  PM13:10〜PM14:50】

4回目になってか、最初からリラックスできるようになっている。
しかし、やはり昼である為、車の音や足音が時折聞こえ、ただぼーっと寝そべっているだけになっている。
それ以上の映像や身体の変化はない。
そうこうしている内に眠ってしまい、次に意識が戻ってきた時には昼寝の後の目覚めの感覚のみが残っていた。
これ以上は無理と思い、四度目の、そして最後のタンクを出る事にする。